精好仙台平の記録より
重要無形文化財保持者 甲田榮佑 稿
の過渡時代ともいうべき藩政中期の模様織物は、空引機と称する手織機で、機械の上部に備えられた模様の掛糸を引く者と、引かれた糸を下で織る者と、一台の機が二名によって操作された。その後、袴地を主として織出すようになってから手織の組織としては、簡単な平織法ではあったが、織味、織風合、織香、気品等最高の織物と成すべく苦心が積み重ねられた。
それらの工夫に没頭専念することができたのは、大大名であった伊達家から織物師として扶持を給せられ、生活と技術を保護されたからに外ならない。従って藩の用命以外は需要に応じない所謂お留め織の制で、 は技術的に高度の成長業達を遂げるに至り、そこに大きな特徴を生んだ。
の染色の特徴は、昔ながらの草木染め方法に独自の近代感覚を加合して、色彩を追及することだけに止まらず、織物の質を強靭にしていることにある。
特に緯糸は、織物が硬軟いずれにも偏しないよう、生糸を生のまま撚らずに使い染色中の熱処理加減にわずかな狂いも許されない非常に困難なものである。
製織は、緯糸を無撚りのまま数本または数十本引き揃え、水で濡らしてから織り上げることで相矛盾した堅さと柔らかさの融合した織上がりの味が加わる。
織手の経験と技術で風格と品位が加わり、真の となる。またこの技術の習得には、染色 製織ともに数十年の期間を要する。
仕立て上がった の袴は、折目の線が垂直で坐すれば堅さのあるふくらみを生じ、起てば折目が簾の如く自然に下がって、裾のまくれる事は絶対にない。これは他の追従を許さない 特徴の最たるものである。
の袴は、用途により高度の織味を加えねばならない。
一、 仕舞用には舞台にて仕舞する動きの品位と美を表現するため、動の形の変化によって形の整う様に織り上げる。
一、 地謡には仕舞の動きと異なり座の形、すなわち静の味に加えて鼓等その他のわずかな動に対する形が整う様に織り上げる。
一、 弓道の場合は終始袴に手を触れる事が出来ない為、特に立体の形の静を袴に表現する。
一、 日本舞踊には、袴そのものが舞に合致せねばならない動きの美の形の表現である。
一、 茶の湯の袴は茶の湯の心を袴に現わす、座に対する静かなる形、品位、並びに色彩の表現である。
その他、一般儀式用や訪問用にも、各々その袴の持つ品位を静と動に表現し、形と心が合致するよう、高度な古典的色彩による縞の芸術的創作が求められる。
の袴は、日本男性の第一礼装として、時代の変遷とともに、さらなる技術の向上に努力していかなければならない。